ぶどう栽培が盛んな山梨県甲州市塩山で、27歳の時お父様のご病気を機に帰郷し就農した丸山さん。当時、0.5haの土地で家族経営されていた農地を、6年で14haまで拡大されました。農林水産省の飛躍的生産性向上を目指すパイロット事業にも「グローバルぶどう輸出産地協議会」の中核企業として参画されているアグベル株式会社の代表でもある丸山さんを訪ね、お取り組みについてご紹介いただきました。
独自の集荷・選果・出荷システムを構築し最短納期で海外に輸出
まず、初めにお邪魔したのは元薬局の店舗を改修して作られた選果場。お邪魔した9月末はシャインマスカットの最盛期ということもあり、大勢のスタッフが等級や規格ごとに収穫物を梱包する作業にあたっていました。6月中旬〜お盆ごろまでは桃を、お盆〜10月中旬ごろまではぶどうをこの選果場に集約して選別・梱包・出荷作業をされるそうです。各契約農家からの納品は運送会社と連携し、電話一本で地域を回るトラックが収穫物を取りに行き、輸出されるものについても同じ運送会社が空港までパレットを届けます。

通常、ぶどうの輸出では農家→JA→市場→仲卸→輸出商社といった具合に港を出るまでに様々な場所を経由しますが、アグベルの場合は自社農園と契約農家で収穫されたぶどうがアグベルの選果場に集約され輸出業務まで内省化されています。そのため、通常であれば収穫から国内を出るまでに7日程度かかる行程が、2日間に短縮され鮮度を維持したまま海外のマーケットまで果物が届けられることになります。
2019年に香港に飛び込み営業に行って以来、輸出先を香港、台湾、シンガポール、タイに拡大しています。
ぶどうの栽培方法は大きく分けて4つ
次に、車で農地に連れて行っていただきました。車内で規格外のぶどうをいただきながらぶどう畑の広がる塩山ののどかな風景の中を進みます。
少し専門的な話になりますが、ぶどうの樹の仕立て方には大きく分けて次の4つの方法があります。

次に、車で農地に連れて行っていただきました。車内で規格外のぶどうをいただきながらぶどう畑の広がる塩山ののどかな風景の中を進みます。
少し専門的な話になりますが、ぶどうの樹の仕立て方には大きく分けて次の4つの方法があります。

規格外品は加工メーカー等に販売されます。
①長梢(ちょうしょう)剪定

棚の上を枝が自由に延びていくのに任せる剪定方法で、房のなるところを追いかけるように人が作業をします。昔ながらの剪定方法で作業効率は悪いですが、反収は2tほどで多い方です。
②短梢(たんしょう)剪定

枝をまっすぐに仕立てることで、一直線にぶどうの房がなります。長梢より作業効率が良くなりますが、反収は1.5tほど。
③垣根型
ワイナリーのぶどう畑でよく見かける仕立て方ですが、アグベルでは採用されていません。
④根域制限栽培

土量を制限したベッドに苗を植え、ぶどうの樹勢を抑えて管理する方法です。従来の栽培方法では1つの樹から300房程度収穫しますが、根域制限栽培では1つの樹からの収穫量は10〜15房ほど。その代わり、10倍ほどの密度で樹を植えていくことで、反収は長梢剪定を上回る3t程度となります。アグベルでは主にハウスで根域制限栽培を導入していますが、灌漑設備を整えることで水分調整が容易になり、大粒で糖度の高いものを収穫できる他、雨による病害虫の発生や粒が落ちてしまうリスクが低くなります。
「農家の倅たち」が活躍する農業技術集団の力で生産量日本一に
アグベルでは100枚を超える自社農園で、③を除くすべての栽培方法によってぶどうが生産されています。「生産が難しい」とされるぶどうで、100枚もの畑を維持できる秘密は、丸山さん同様、高い生産技術を持つ「農家の倅」が社員として栽培を支えているから。農繁期には生産部門7名の社員に、60名ほどのバイトスタッフが社員をリーダーとするチームに分かれ作業に加わります。
また、アグベルでは一つ一つの圃場が小さく農地の集約化が難しい山梨だけでなく、茨城県でもぶどうと梨の生産を始めました。茨城県では山梨の100枚分の畑が1箇所に集約できるよう、地権者交渉から圃場の整備までアグベル自ら行いました。現在は山梨から移住した2名の社員が常駐で圃場の管理をしています。
丸山さんのUターン後、6年で生食用のぶどうでは生産規模が国内トップクラスになりました。広大な農地での生産を管理するため、自社で既存のソフトにワークフローを組んで栽培データを集約しているそうです。農業は時期により仕事量に差が大きく、社員の皆さんは年間117日の休みを仕事に合わせて調整するため、農閑期は長期のお休みをとる方も多いのだとか。社員の平均年齢は29歳。アグベルの「確かな生産技術」と「新しい働き方」に日本のこれからの農業のあり方を感じました。

果樹業界のリーディングカンパニーに!農業にかける想い
丸山さんが東京で勤めていた大手企業を退職し、山梨に戻ったのは2018年、27歳の時。お父様が急病を得たことがきっかけでした。お父様が亡くなられる2ヶ月ほど前、農業を継ぐことを伝えると、とても喜ばれて「農業には色んな可能性があるから大丈夫だ」と背中を押してくれたそうです。
一方で、大手企業を辞めてまで農業を継ぐことに、同情にも似た態度で丸山さんに接する人もいたと言います。「農業は助けてあげなければいけない対象だと思われるのが嫌だ」と語る丸山さんの奮闘がスタートしました。

けれども、従来通りの農業を始めた最初の1年間、丸山さんは「このままやっていけるのか」と大きな不安を感じることになります。山梨のぶどう農家は、丸山家が代々そうであったように家族経営で農業にあたることが一般的です。おじいさん、おばあさんから家族総出で農作業をし、1世帯あたりの収入は1,000万円程度になることが多いそうですが、人工や原価といった概念がなく家族は無償の労働力となります。「このままでは農業技術は育っても経営者は育たない」と考えた丸山さんは、個人農家としてではなく、法人として農業に取り組むことにしました。それまで全量をJAに卸していた慣習を取りやめ、海外市場も含め、価格を自分で決められる販売先を一つずつ開拓してきた丸山さん。賛同してくれる仲間が社員として加わり農地を拡大、売上はこの6年で30倍アップしました。
一般的に苗が育ち実を収穫できるようになるまでに2〜3年、収益化できるようになるまでには6〜7年かかる果樹農業はキャッシュフローを回すのが困難ですが、100ha〜500ha規模の農業を目指す実例がこれまで国内に存在しないため、融資等、大規模な農業経営者に対する十分な支援体制も整っていないといいます。それでも「圧倒的な生産量」「集約化された農地」「ファイナンスの戦略」で世界的に闘える農業企業を目指すアグベル。生産規模の拡大だけでなく、育種にも力を入れ知財として育てていくことにも取り組まれているそうです。

「社名の由来は『農業界(=アグリ)』に『ベルを鳴らす』。DoleやZespriに並ぶ果物のブランドを、日本から創出していきたい」と語る丸山さんの熱意が、これからの日本農業を変えていく大きな力になる、そんな希望を感じました。
基本情報
会社名:アグベル株式会社
本社所在地:山梨県山梨市大工312
圃場所在地:山梨県・茨城県
栽培品目:ぶどう、桃、梨
圃場面積・ぶどう生産量:20ha・200t
<丸山 桂佑 氏 プロフィール>
1992年山梨市生まれ。山梨で60年以上続くぶどう農家3代目。
2017年、父親の病気を機に山梨へUターンし家業であるぶどう農家を継承。
2018年から独自での販売や輸出を行い、2020年、日本の果樹産業をアップデートすべく「アグベル株式会社」を創業。
生産規模拡大や選果場運営などを行い、産業の新たなインフラを目指している。
2022年輸出に取り組む優良事業者として【農林水産大臣賞】を受賞。フラッグシップ産地にも認定されている。山梨だけでなく、茨城県へも子会社を設立しぶどう生産を行っている。

